Appleスティーブ・ジョブズCEO、「音楽」を語る (itmedia) / yokoyama

あいかわらず、ジョブズはカッコいい。

そうではなくて、経験に違いがあるのです。テクノロジー側の人は映画会社がやっているような、クリエイティブプロセスを通してモノを作り出すことが理解できないので、その労苦を尊重しないのです。そして、クリエイティブ企業はテクノロジーがどれだけクリエイティブなものかを理解しない。買える「なにか」だと思っている。というふうに、両者の間には深い溝があるのです。

 映画について面白いのは、音楽とはずいぶん違う環境にあるというところです。われわれがiTunes Music Storeをオープンしたときは、音楽を聴くための方法は2種類しかありませんでした。ラジオで聴くか、CDを買いに行くかしかなかったのです。

 映画を見るための方法が何種類あるか、考えてみてください。10ドル払って映画館で観る。20ドルでDVDを買うこともできる。Netflixサービスを使ってDVDを借り、家まで配達してもらうこともできる。レンタルビデオのBlockbusterに行って、DVDを借りることも。ペイ・パー・ビューで視聴することもできる。もう少し待てばケーブルテレビで放映されるかもしれない。さらに待てば、無料のテレビで観ることができるかもしれない。飛行機で上映されるかもしれない。映画を見るための方法は、実にたくさんあるのです。1、2ドルしか必要としない方法もあります。

 それに、私はお気に入りの映画でも、一生に1000回観たくはない。せいぜい5回でしょう。でも、好きな曲ならば、一生で1000回聴きたいと思います。

 だから、音楽と映画はまったく異なる生き物であり、映画産業は以前の音楽業界よりもはるかに成熟した流通戦略を持っているのです。まったく別の世界のものなのです。

 もう一つ、人はオーディオ品質よりもビジュアル品質を気にかける。CDフォーマットの後継となったのは? MP3です。品質は低いけれどもインターネットを通して転送するのには便利で、これは他のどのフォーマットでもなしえなかったことです。

 しかし、ビデオはこの図式には当てはまりません。DVDフォーマットの品質に引き上げられてしまったので、いまさらVHS品質には戻れなくなっているのです。インターネットで高速ダウンロードできるからといって、がまんできない。ありえないでしょう。だから、DVD品質の映画をダウンロードするためには、ほとんどの人たちのブロードバンド接続環境では数時間を要するのです。

 つまり、ハリウッドが感じる脅威は音楽業界が実感している脅威とは、まったく異なるものであり、ハリウッドにとって最大の脅威はインターネットではないのです。ハリウッドにとって最大の脅威はDVDライターです。同様に、インターネットはビジネスチャンスとして大きなものではない、とも言えます。