押井談「今、結婚しない人が増えているでしょう」 (読売新聞:ジブリをいっぱい) / yokoyamen

押井マンセー

押井 若い人にとっても、身体の問題というのは、深刻なんじゃないかと思うんです。最近、身体に触れずに済むコミュニケーションが求められているでしょう。電車に乗っても、携帯電話にばかり向かっている。五感のなかでも、視覚と聴覚ばかりが偏重されている時代で、なぜ、そうなっているんだろうということが気になっていました。日本映画一つとっても、ものを食べる場面が急速になくなっているし、アニメーションには、身体性のない幽霊みたいな女の子が沢山出てくる。このままだと、臓器移植のニュースを聞いても、「何がニュースなのか分からない」という事態に陥るんじゃないかと。

―今、身体を考えることはそれだけ切実であると。

押井 ただ、それがいいとか悪いということを語るつもりはありません。僕は、そういう状況について描くだけですから。たとえば、今、結婚しない人が増えているでしょう。僕の周りにもたくさんいますけど、それを憂うつもりなんてないですよ。僕は、孤独が悪だなんて思いませんから。そもそも、そういう人が増えているのは、他人の生理との関わりを気にせずに生きたいという欲求があるからでしょう。「イノセンス」で身体について考えるからといって、「もっと触れ合いましょう」ということが言いたいわけではないんです。むしろ、「向かい合って話せば分かる」というような戦後民主主義の幻想を押しつけられてきた僕にとっては、煩わしい印象すらありますから。